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和訳の話

扉絵

このたび個人的な興味や関心から

インターネットで心理学に関係する

とあるアンケートを実施しました。

 

ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

 

今回は、そのアンケートをもとに書いていきます。

日本語に訳すとき

英語で

ASD(エー・エス・ディー)という用語があります。

Autism Spectrum Disorder(オーティズム・スペクトラム・ディスオーダー)の

頭文字です。

 

その訳語がひとつではない、というのがアンケートのきっかけで

アンケートの質問

私が用意した質問と4つの選択肢は、次の通りです。

 

🐈心理支援職アンケート ※どれが「正しい」ではなく、参考まで。

Autism Spectrum Disorder:ASDの日本語訳で、なじみがあるのはどれですか?

・自閉症スペクトラム

・自閉スペクトラム症

・自閉症スペクトラム障害

・自閉スペクトラム症障害

 

選択肢はどれもよく似ていますが微妙に違います。

質問の「なじみがあるのはどれですか?」というところがポイントです。

アンケートの結果

アンケート結果のグラフ

アンケートを開始した時点では

単純に「実際、どれが多く使われているんだろう?」という思いでした。

 

ですが、「順位なんてどうでも良い」というぐらい

ASDの訳し方で見えてくるものがあると気づいたのです。

 

「周りが、先生が、それを使っていたから」ではなく、

それぞれが自分自身で選択したと仮定して考えてみました。

 

いまから、それを共有したいと思います。

心理学に興味のある方はぜひお読みください。

(1)自閉症スペクトラム障害

「自閉症スペクトラム障害」を選んだ人は

完全に一致するように直訳するタイプ」と言えるでしょう。

 

Autism=自閉症

Spectrum=スペクトラム

Disorder=障害

 

ASD=自閉症スペクトラム障害

 

忠実に訳すタイプの人たちが、こちらに投票したと考えられます。

「訳語として正しいのはどれですか?」という問いであれば、正解はこれです。

英語の意味を漏らさず訳している「自閉症スペクトラム障害」が大正解。

 

ですが、今回は「最もなじみがあるのは」という質問なので、

他の回答も「あり」なのです。

続けて見ていきましょう。

(2)自閉症スペクトラム

自閉症スペクトラムを選んだ人は

「しっかりその人の事情と向き合うタイプではないでしょうか

 

ASDの人のその性質の部分について語られるとき、

英語ではたいてい「Autism(オーティズム)」と言います。

つまり最初の「A」だけで、

そのあとの「S」と「D」ははぶくのです。

 

せっかくなので

すこし寄り道をして解説しましょう。

 

はぶかれてしまう「D=Disorder」についての話をします。

なんらかの性質が本人にとっての「障害=Disorder」になっていると言えるかどうかは

精神科医師や心療内科医師の先生が診断してくださいます。

「障害」という言葉が重要性を持つのは

その診断によって適切なサポートが得られるようになる場合です。

 

ですが、普段の生活の中では、全体では、

サポートが必要ではない場面もある、

必ずしも「障害」ばかりではない、

それもまた注目に値する実情なのだとしたら、どうでしょうか?

生活全体を理解する、つまり、その人の事情と向き合うということです。

 

普段からそういった見方になじみのある人たちが、

「自閉症スペクトラム」の選択肢に票を投じたと考えられます。

 

本来は「Autism(オーティズム)」の和訳が

「自閉症スペクトラム」となっても良いはず…

ですが、日本の医学や臨床心理学では、

英語圏の人が日常でよく使う「Autism」の使用頻度が以前と比べて減ってしまい、

「ASD」が多く使われがちになったという事情も、

日本でASDを「自閉症スペクトラム」と言う背景にあるように思います。

(3)自閉スペクトラム症

「自閉スペクトラム症」を選んだ人は

「最後に症をもってきたいタイプ」と考えられます

 

「自閉スペクトラム症」は、

「自閉症」という用語の間に「スペクトラム」を入れて作られた

日本オリジナルの用語です。

そのまま英語に当てはめるなら

「Autism(オーティズム)」という用語の間に「Spectrum(スペクトラム)」を入れた

「Auti-spectrum-sm(オーティ・スペクトラム・ズム)」のようなちょっと強引な感じです。

 

「自閉症」は「自閉」とは概念が異なるので、

本当は「自閉症」と一気に言い切らなければなりません。

「自閉」でとめたら、別の意味になってしまいます。

ですが、

「自閉スペクトラム症」というひとつの新しい単語とみなせばセーフなのです。

 

その利点は、次の2点があるのではないでしょうか。

 

ひとつめ。

「障害(D)」の訳をのぞいたこと。それについては、

「自閉症スペクトラム」の項に記した通りです。同じです。

本人が感じる困難さだけではなく、生活全体を理解していく視点です。

「D」が抜けたことでASDの正確な訳語ではなくなり、

ニュアンスとしてはAutism(オーティズム)の訳語に近い

であろうことも共通します。

 

ふたつめ。

この「自閉スペクトラム症」は

「症」で終わるので、他の「〇〇症」との整合性があります。

一般に、「〇〇症」というのは耳なじみがあっても、

「〇〇症スペクトラム」というのは違和感を覚えるかも知れませんよね。

 

そういった背景から生まれたのだろうと私は推測しています。

そんな「自閉スペクトラム症」という用語になじみのある人たちが

投票したのでしょう。

(4)自閉スペクトラム症障害

「自閉スペクトラム症障害」を選んだ人は

「これまで解説してきたものの良いとこ取りタイプと言えるでしょう。

 

これは「自閉スペクトラム症」に、診断である「障害(D)」をつけ加えたものです。

 

「Disorder(ディスオーダー)=障害」がはぶかれていないので、

直訳に近いと言えます。

医学的な診断であるASDの意味を網羅した

「自閉症スペクトラム障害」にも通じるものです。

 

さらに

その人の生活など全般を理解しようといった見方

応じて「D=障害」を取ってしまえば

「自閉スペクトラム症」という形にもなり、活用しやすいです。

 

先に「自閉スペクトラム症」という言葉になじみがありつつ、

質問の中にASDの「D」があったのでこれを選択した、

という方々が

「自閉スペクトラム症障害」に票を入れたものと推測されます。

 

以上、選択肢の4つについて書いてきました。

さいごに

普段、口頭で使う分には、

いずれも間違いではないというのが私の考えです。

 

ちなみに私はというと、

状況によって使い分けます。なじみという感覚では判断しない性格です。

 

ASDの直訳は「自閉症スペクトラム障害」が正解なので、

私が回答者だったら「自閉症スペクトラム障害」に1票入れたでしょう。

ただ、自閉症の人を支援する場でお仕事をしていたら、

そこで一番なじんで使われている言葉に投票したと思います。

 

「障害」にこだわらず、全般を理解しようというとき、

「自閉症」で通じるようであれば「自閉症」という言葉を用います。

心理支援職の集まりなど「スペクトラム」をつけたほうが無難な場もあり、

そこでは「自閉症スペクトラム」と言います。

 

話をする相手が「自閉スペクトラム症」を使っているのであれば

私もそこでは「自閉スペクトラム症」と言うでしょう。

同様に「自閉スペクトラム症障害」「自閉症スペクトラム症」などとも言います。

 

また機会がありましたら

こんな感じのブログも書いてみたいと思います。

それでは。

鹿野 豪

※本ブログの内容は私見であり、いわゆる調査ではなく軽いアンケートとご理解ください。

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