意味
人生にはあいまいなことやよく分からないことが付き物です。
『ネガティブ・ケイパビリティ』とは、
あいまいなことやよく分からないことを前にした状態で、
それがなんなのかをすぐ追求したり解決しようとはせずに、
そのままでいられる力を指します。
言葉の成り立ち
言葉の成り立ちが重要なので、解説したいと思います。
まず「ネガティブ」ですが、
ここではよく使われている意味とは違うのがポイントです。
ネガティブの反対はポジティブですが、
これを「明るい」「前向き」ではなくて、
「積極的にする」という意味でとります。
すると、
その反対は「別に積極的にするわけではない」となります。
ネガティブと言っても
今回に関しては、けっして否定的なマイナスの意味ではなく、
「別に積極的にするわけではない」で押さえておいてください。
続いて「ケイパビリティ」は、「できる力(能力)」を意味します。
語源の近い単語には
何かの施設にどのくらい入るのかを示す時の「キャパシティー」があり、
意味も通じるところがあります。
できる力と言っても、有能さというより、許容や受容の力に近いでしょう。
力(りき)んだ力ではなく、力を抜いた自然体の力なのです。
イメージはいかがでしょうか。
ネガティブ・ケイパビリティとは、
「別に積極的にするわけではない」という姿勢を
力まずに「できる力」と言えます。
ガツガツいかない、余裕や落ち着きを連想してみても良いと思います。
そして、その姿勢はいろんな事柄に意味をもたらすことでしょう。
ジョン・キーツ(1795–1821)
1817年に初めてイギリスの詩人ジョン・キーツが
『ネガティブ・ケイパビリティ』の概念を用いた際、
物語を美しく紡いだ劇作家シェイクスピアには
この能力が極めて高く備わっていたはずだと指摘しています。
淡い情景を淡々と描いたり、物語の伏線をそのままにしておいたりは、
作品の創作において重要な能力、ということなのでしょうか。
きっとそれだけではありません。
描き出される登場人物の心情、それに触れる読者の心の動きもまた、
ゆっくりと流れるところがあるのなら
『ネガティブ・ケイパビリティ』がカギになる思われるのです。
たしかにアクション映画のように
目の前の事件→解決→事件→解決…の連続という
主人公の積極的な行動力で展開する痛快な作品もあるでしょう。
ですが、
ヒューマンドラマであれば、
目の前の問題をすぐに解決させようと飛びつかないことで
紡がれる物語があるはずです。
ウィルフレッド・ビオン(1897-1979)
のちに精神科医ウィルフレッド・ビオンは
『ネガティブ・ケイパビリティ』の概念に注目して、
人と人との間における重要性を説きました。
平たく言うと、
精神科医が患者さんとの対話においてあまりにガツガツいくと、
患者さんを委縮させたり
精神科医が自分の考える枠組みに当てはめることをしてしまう、
それらには気をつけましょう
という同業者への注意喚起です。
心のネガティブ・ケイパビリティ
作家であれ、精神科医であれ、
その他どんな立場の人も
人生には、あいまいさが付き物です。
つい目の前のことを解決させようとすぐに飛びつくと、
そこから更なるトラブルが生じたり、
人間関係がこじれたり壊れたりするおそれも…。
そんな時の気持ちはどうでしょうか。
焦ったり、イライラしていたりもあるでしょう。
望まれるのは『ネガティブ・ケイパビリティ』。
しかし、人によっては、また時と場合によっては、
つい口を出してしまったり、ついなにか手を出してしまうのでしょう。
決して楽に実現できるものではないのです。
ネガティブ・ケイパビリティを妨げるもの
『ネガティブ・ケイパビリティ』を妨げる影響には、
解決を急ぎがちな性格やそういった生き方、
または明確な結果を求めたくなるような環境なども
あることでしょう。
それに、理性を呑み込んでしまうような
感情や機嫌、
頼りがちな決まった思考のパターン、発言のパターン、
そうならざるを得ないストレスもあるかも知れません。
『ネガティブ・ケイパビリティ』の姿勢が保てない時には、
なにかしら理由があるのでしょう。
「ネガティブ・ケイパビリティがうまくできない。
ああ、自分がダメなんだ」と決めつけることはありませんよ。
たとえ自分の性格や感情から生じているとしても、
それだって悩ましい事情だと言えるのです。
単純に「自分がダメなんだ」と決めつけるのは
心理カウンセラーとしておすすめしません。
ネガティブ・ケイパビリティを身につける
ひとによって様々なので、
ここに解決策を書くことはできません。
ヒントぐらいにはなるでしょうか。
第一に、頭で理解することから始めましょう。
「早い解決こそ素晴らしい」といった考えを
脇に置く練習が必要です。
すぐ解決へと飛びつかないことで見えてくる景色は
それもまた素晴らしいものです。
周りのおとなしい人が本音を語って伝えてくれたり、
スローめな人がマイペースで本領を発揮してくれたり、
自分ひとりで
何もしないことで見えてくる変化や解決策もあるはず。
…と、頭の中に知識として置いておきましょう。
第二に、それを体験的に実感することです。
『ネガティブ・ケイパビリティ』の姿勢で得られるなにかを
喜べるようになれば、あとは自然とくり返しの中で身についていきます。
待つ行為の意義、すぐに解決を目指さない意義を
感覚的に分かることが大事です。
第三に、自分に合ったコツをつかみましょう。
妨げてくるのは焦りやイライラ。
『ネガティブ・ケイパビリティ』の補助として
気になる点を紙に書き出して頭の整理をしたり
誰かと対話して気持ちを整えるのも
支えになり得ます。
場所を変えたり音楽を聴いたり口ずさんだりといった
気分転換を見つけると役に立つかも知れません。
※ 当ブログで記したネガティブ・ケイパビリティの概念は
ジョン・キーツの記述を受けた独自の解釈であり、
ビオンをはじめとするのちの解釈と異なる点があることをご了承ください。
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