※本ブログでは、心理学者は敬称略、それ以外の方は「さん」を敬称としています。
『モラトリアム』という言葉を聞いたことがありますか?
元々の意味のひとつは「猶予期間」です。
心理的な猶予期間とは、どういうことでしょうか?
エリク・エリクソン(1902-1994)
心の『モラトリアム』という言葉は、
最初にオーストリアの精神科医フロイトが用いました。
その後さらに、
アメリカの心理学者エリク・エリクソンが
意味や考え方を提唱しました。
おおよそ一般的には、
学校を経て、それぞれの「進路」を決めるのが主流だとしましょう。
ですが、
今も昔も、アメリカでも日本でも、
卒業なり中退なりをしたあと
自分自身の進路を「これで生きていこう」と決めない、
そういう人は存在します。
進路を確定しないまま。
エリク・エリクソン自身も
そんなひとりだったそうです。
その姿は、
周りの人から例えば「有意義ではない」といったように、
好意的に見てもらえない場合があるかも知れません。
そんなプレッシャーに対し、
エリクソンは理解を求めたのです。
エリクソンの主張を受けて、
私なりに意訳すると次のように言えます。
「心は、目に見えないものを内側で育んでいる面があります。
周りが一方的に批判してしまっては、その意味が見えなくなる。
当人の思いや事情を受けとめることから始めましょう」
心は目に見えません。なので、
あえて『モラトリアム』という言葉で表す必要性があったのです。
人生の進路は本人のもの。
周りが責めて解決するわけではない、
というのは心理サポートの基本的な考え方にも通じます。
私もそれを支持します。
ちなみに日本では
1999年、
『モラトリアム』という言葉を使ったCDが発売されました。
「無罪モラトリアム」
椎名林檎さんのアルバムです。
前述のとおり、エリクソンの提示した『モラトリアム』自体にも
「無罪」の意味が含まれていると言えます。
ですが、
椎名林檎さんが「無罪モラトリアム」と添えなければならないぐらい、
自分の進路を決めずにいる状態では
責めを受けかねないのだとも言えます。
だからこそ、
「『モラトリアム』は無罪なんだ」 という表明が共感を呼んだのでしょう。
さかのぼれば、1978年に出版された
小此木啓吾による「モラトリアム人間の時代」という本で
言葉だけは広まったけれど、
その言葉がひとり歩きして、 世間には批判的な意味づけで、
つまり誤解が広まってしまったとも言われています。
今でもネットで検索すれば、理解の無い解説が数多くみられるでしょう。
その点は残念な状況でもあります。
心のために
一方的な批判によって「改善」など起こるわけではありません。
これがもし仮になにか技能の習得の話だとするなら、
「がんばれ」「もっとこうするんだ」といった
叱咤激励も励みになる可能性があるでしょう。
しかし、
これは、アイデンティティをかけた心の話なのです。
心の話とは、こういうことです。
心は
どんな関わりを通じて
その中に
何をどう育むものなのか。
『モラトリアム』の意味について
より理解が深まる時代になればと思います。
鹿野 豪
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