マスメディア
マスメディアとは、
ここでは、情報をあつかって
番組や企画として成立しているものを指すこととします。
動画や文字など様々な形態がありますが、
それを統括するディレクターさんのような
全体を監督する役割の方がいるイメージです。
新聞や雑誌であれば、編集者や編集長という役職の方が相当するでしょう。
そういったマスメディアで
コメントする立場に
心理の専門家はめったに登場しません。
実は、それにはいくつかの理由があります。
統計の不確実性
心理学は、統計と無縁ではありません。
統計という難しい言葉を使いましたが、
ここでは簡略化して、
「99%の人に当てはまるなら、かなり当てはまると言える」
といったイメージで結構です。
心理学においても統計を駆使して
心にまつわる現象がどのように生じ得るのかを論文にしますし、
それを心理に関する支援の順序立てなどで参考にします。
ですが、
心理学に特徴的な宿命として、
たとえ99%に当てはまるからといっても、
「かなり当てはまる」と
公の場では言いにくい事情があります。
どうしてでしょうか。
100人いて、その中に1人の苦しんでいる人がいるとします。
99人に当てはまることを「かなり当てはまる」としたとき、
そこに該当しなかった1人の無下にされた心の痛みは、いかほどでしょうか。
マスメディアの発信は、どこの誰に届くのか分かりません。
心に関して意見を求められる時、なかなか
分かりやすい答えは言えないのです。
再現の不確実性
理由は他にもあります。
ある人にとって良かったことが、
別の人にとって良いとは限りません。
心に関する支援においては基本的に、
ご本人の気持ちにそって心を支えていくものであり、
安易にアドバイスをしないものなのです。
例えば、スポーツ選手のメンタルトレーナーを考えてみても、
選手本人の感じ方を一切無視して
アドバイスを繰り返したりはしないと思います。
一方的なアドバイスにはリスクがあるのです。
上手くいった前例の通りに良さが再現されるとは限りませんし、
アドバイスに添えない自責にさらに苦しむ問題が起こり得ます。
また、
反発して逆のことをしたくなる心理状態もあり得ますし、
既に自らやってみて失敗した方法であれば
みじめさを掻き立ててしまうでしょう。
ディレクターさんが
「なにかアドバイスを」とお求めになるのも分かりますが、
マスメディアの情報発信に一方通行という側面がある以上、
内容次第ではありますが、
心理の専門家はあえてそれをしない場合があるのです。
当事者たちのプロセス
心に関する事柄は、
実際の当事者たちの間で、もしくは当事者の心の中で、
刻一刻と進行していきます。
一般的な捉え方で
「こういった悩みの心理は?」や
「災害の被災者の心理は?」といった関心に応える情報を
示すのも、マスメディアの役割と言えるでしょう。
ただ、
ディレクターさんにそういう質問をされても、
当事者でない限り、
「当事者にしか分からないことだと思います」や
「当事者と直接に話をしていないので分かりません」といった
お答えしかできないのです。
そして、当事者の中には
積極的に意見を主張したい人もいれば、
そっとしておいて欲しい人もいることでしょう。
可能なことはと言えば、
意見を主張したい人の声に耳を傾けていただくようお願いします。
心理以外の立場であれば当事者の代弁者の役にもなれます。
ですが、
心が複雑で変化していき、かつ個人個人で違う以上、
心理の専門家が代表するかのような発言はしにくいのです。
マスメディアと心理学
上に挙げたも以外にも、
ディレクターさんが求める情報はあるのだと思います。
統計的に高い数字を「正しい」とはみなさず、
例外や少数派にも配慮したもの。
一方的なアドバイスではなく、
具体的な話を通じて得るヒントなどに留めるもの。
部外者としてコメントをするのではなく、
当事者の思いを尊重するもの。
…などなど、あると思っています。
そうであれば、心理の専門家としてお役に立ちたいのです。
確かに、状況次第では、
ディレクターさんの期待や求めの通りには動かない
やっかいな存在かも知れません。
ですが、それは、他の人の心を大事に思う
専門性ゆえの判断であると、ご理解ご容赦ください。
有益な情報については、ぜひ発信していきましょう。
お力になれれば幸いですし、
お近くの心理の専門家にご相談いただくのは良いことだと思います。
また、
心のことに関心をお持ちの一般の方々に
私がお伝えしたいのは次のことです。
マスメディアが発信している情報については、
参考にしつつも、一定の距離をとって冷静に、
疎外感に傷ついたり無力感にやられることの無いよう
気をつけていただきたいです。
心構えは、このブログで述べてきた中にもあります。
まずは自分は自分なのだと割り切りましょう。
多数派に入れられなかったとしても、傷つかないように。
一方的なアドバイスを、むやみに真に受けないように。
個人のペースで進んでいく心のプロセスを大事に。
鹿野 豪
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